「わぁー!写真で見てたよりずっと綺麗♪」
「ふふっ、本当にすごい景色だね」
「さすがPちゃん、ええ仕事とって来てくれるわ!」
私たちは、CMの撮影のため、温泉宿にやってきていた。撮影が終わった後、宿側の好意とPの頑張りのおかげで私たちは温泉を貸し切りで使わせてもらえることになったんだけど――
「いやぁ絶景かな、絶景かな!これはええ気分やわー」
「本当ね。私たちの普段使ってる女子寮のお風呂も広いけどこれは別格だわ」
「はぁ〜あったかいねぇ〜」
「あっこらさくら!ちゃんと入る前に体洗ったか?」
「ちゃんと洗ったもーん!フフーン!」
こういうところに来るたびに毎回起こるやり取り。さくらは普段は喋りながらのんびり洗ってるのに、温泉に来た時だけは異様に行動が早い。というか――
「なんで幸子ちゃんの口癖?」
「幸子ちゃんってカワイイでしょ?」
「うん?そうだね」
「口癖をマネしたらあのカワイイも分かるようになるかなぁって♪見てるだけじゃわからないことってたくさんあるしぃ」
なるほどね。そんなことしなくてもさくらは可愛いけど、やりたいことは分かる。
「さくらって意外と他人のもん吸収して自分の力に変えに行くよなぁ」
「でも勝手に口癖真似たのバレたら幸子ちゃんに怒らないかな?」
「大丈夫ぅ♪本人にやっていいかちゃんと聞いたもん」
こういう度胸のあるところ、ほんとかなわないなぁ……
「それ本人に聞くんか……やる気まんまんやな。幸子ちゃんはなんて?」
「『ボクの口調をまねたいんですか?いいでしょう!』って」
「……それはまたものすごい快諾やな」
「でもそれに続けて『まぁ、ボクよりカワイくなれるとは思わないことです!何てったって、世界一カワイイのはボクなので♪』って言われちゃったぁ」
「言いそうやわぁ」
……うん、そんな感じだろうとは思った。幸子ちゃんのあの可愛さは幸子ちゃんだから成立するものだし、本人もそれをよく理解してるから許してくれたんだろうね。
「よし洗い終わったし私もお湯入ろうっと」
「アタシも終わり〜」
「あれ、さくら?」
「さくらー、どこやー?」
「こっちだよぉ、こっちこっちぃ♪」
声のする方へ目を向けると、一段高い湯舟のへりに肘をついてこちらを見るさくらの姿。
「そっちにもあったんだ」
「うん、なんだかこっちのお湯の方があったかいよぉ」
「おっ、じゃアタシもそっち行くー」
「……気持ちええわ〜」
「しみるわねー」
「……」
「じっと黙って私たち見てどうしたの?さくら」
「イズミンとアコちゃんが並んでお風呂に入ってると画になるなぁって」
「嬉しいこと言ってくれるやん、ポーズもつけよか?」
「もう、やらないわよ」
「なんやいずみの意地悪〜!」
「ポーズは昼間の撮影でさんざんやったでしょ?……というより画になるといえばさくらも十分負けてないよ」
「それはそのとおりやわ」
「そぉ?どんな感じぃ?」
「せやな、まずタオル頭に載せてみて」
「こう?」
「そうね、次は肩までお湯につかって」
「はぁい」
「目を閉じる」
「閉じたらぁ?」
「アタシらがモチモチする!」
「もー!」
「さくらのほっぺってほんとやわらかいね」
「ずっと触ってられるわ〜」
「わたしのほっぺたは二人のおもちゃじゃなぁい!」
「あはは、ごめんごめん」
「さくらが可愛かったからつい、ね?」
「かわいいっていったら何でもわたしが忘れると思ってなぁい?」
「そ、そんなことは思ってへんよ?」
「さくらが可愛すぎて手が出たのは本当だし……」
「もう……仕方ないからアイス1個で許しまぁす」
「おっと、さくらもしたたかになってきたなぁ」
「もう、すっかり誰かさんの悪い影響受けちゃって」
「誰のことやろうなぁ?」
「ふふっ、それじゃ湯あたりしてもいけないしそろそろ上がろうか」
「了解やで、温泉も景色もキッチリ楽しませてもろたしな!」
「ふふ〜ん、アイスアイス〜」
「コケるなよ〜」
「大丈夫大丈夫ぅ♪」
終
この記事は、大石泉すき Advent Calendar 2020 22日目の記事です。