イズミンティータイム

「イズミンってかわいいですよねぇ」

寮の談話室でくつろいでいると、さくらが突然しみじみと何やら言い出した。

「そうやなー、普段からしっかりしてる中でたまにパッと見せる表情とかええよなー。……いきなりどうしたんや?」

「えっとねぇ、最近わたしたちイズミンのことをほめる時にカッコいいとか頼りになるとかは言ってても、かわいいっていうことが減ってないですかぁ?」

「なるほどな?」

相槌を打って目線を天井に向け、ここしばらくの自分たちの会話を考える。ショップでのCD頒布会、ヴォーカルレッスン、ファッション雑誌の撮影、学校帰り……

「……そんな気がしてきたわ」

「でしょ?だから、今日代わりにいっぱいイズミンをかわいいって言おうよぉ♪」

今の今までソファに寝転んでグデグデしていたさくらが、目をキラキラさせて顔を近づけてきた。なんやこの可愛い生き物は。アタシもいずみの可愛いところはぎょーさん知っとるし語り合うのはええけど――

「……いまここでやるんか?」

――そう、会話にこそ入って来とらんけど、アタシたちの7m向こうの食卓ではいずみが小学生アイドルたちの勉強を見とって。今は背中を向けてるから表情は見えんものの、間違いなく会話は聞こえてるはず。

「こういうのはやりたくなったときにやらないと意味がないよぉアコちゃん!」

ここで更に力を込めていうさくら。こうなったさくらを曲げるのは至難の業か……。

「あー、わかった、じゃあ始めよか?」

「じゃあ代わりばんこに可愛いと思うところ!」

ブレインストーミングか?

「はいよ、アタシからか?」

「そうだよぉ」

既定事項かい。

「そんじゃまずは……Pちゃんにほめられた後、会話中は普通にしてるのに終わったら照れてる顔がかわええ」

「あぁっそれわたしが言おうとしてたのにぃ!」

「知らんがな!なんで最初アタシからにしたんや!」

「だってまさかいきなり被るとは思わなかったんだもん!」

カチャーン

あ、桃華ちゃんが鉛筆落とした。……いや肩めっちゃ震えとるが。そんな笑うか。

「えーと、えーと」

ほんでさくらは自分からはじめておいてそこまで悩むか。

「あっ、アコちゃんが時々変なおみやげ買ってきた時にジト目するところ!かわいい!」

ケホッケホッ!

おっありすちゃんがむせた。今のはさくらがもう少し悩むと思ったせいで起きた事故やろか。……まぁ今のさくらの「かわいい!」びっくりするくらいアホの子っぽかったからなあ。ドンマイ、ありすちゃん。

「というか土産もんで一番ジト目されとるんさくらやからな?最近減ったけど」

「わたしも学習するんですぅ」

「そかそか、えらいえらい」

「むぅー!」プクー

「で、次またアタシの番か」

「えっと、そうだねぇ」

さて……褒めるのは普段から感じたときにわりとポンと言うとるからいざ探すと難しいな?癖とかから見つからんかな……あ。

「あー、たまに難しー顔してパソコンみてて、エンターキーかなんか叩いてニヤッてしてたりするのもかわええな」

ここで食卓側を確認。

……。

千枝ちゃんがいずみを不安そうに見とるな……これ本人に刺さったやつか。

「あっ!」

「ん?何事や、どうしたさくら」

「宿題の作文があるの思い出しましたぁ!」

作文?

「なんやそれ、初めて聞いたんやけど」

「先々週に出した作文があったでしょぉ?」

「あー、『心動かされたこと』とかいうあれか」

「そうなのぉ、出したらやり直しになっちゃって。『プロデューサーさんにケーキバイキングに連れていって嬉しかったのは伝わりますがもう少し内容を膨らませて』だってぇ」

「あ、よかった、再提出言うから『せめて夏休みの絵日記レベルを越えてください』くらい言われたんかと」

「えーなんでわかったのぉ!?」

!?

ブフッ

わぁ、誰か今アイドルにあるまじき音出さんかったか。

「……ちょっと二人とも?」

おや大石サンや。この展開はよろしくない。

「よそでやってくれないかな?」

まあそうなるわな。ここで取るべき行動は、と――

「すんませんでしたーっ!」


この記事は、大石泉すき Advent Calendar 2020 7日目の記事です。

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